第9巻 48P 吉水遺誓諺論 忍澂

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a01 救我の願心が闕けぬれば往生のためには。引業熟し
a02 がたく。本願に相應せざる疎雜の行なりと嫌はれた
a03 り。これによりて。たとひ智解學問ありて。諸宗の
a04 敎理を明らめたる人なりとも。もし定慧の力よはく
a05 して。自力の出離は契ふべからずと思ひ知て。ただ往
a06 生極樂を求むる念佛ならば年來の學解の工夫を雜へ
a07 ず。ただ念念ごとに助玉へと思ひつめて。一筋に他
a08 力を打ちたのみて願行相續の稱名を勵ますべしとな
a09 り。すべて淨穢を論ぜず。當來受生の法には。願力を
a10 もて第一とすと云事は。佛法の大なる理りなり。誰の
a11 學者か之を知ざらんや。况や凡夫の思ひ絶えたる界
a12 外淨土の受生なるをや。但し此義を知るといへども。
a13 螢火の少智を捨てかねて。願行相續に踈なる人は。
a14 げによく知ることの難き故なるべし。又その願心も。
a15 末世の劣機は。重淨勇猛の心發りがたければ。恆所
a16 作ならでは。往生の業因。輙くは圓滿しがたし。こ
a17 れによりて。稱名の心の内に。念念に相續して助玉
b01 へと願心を勵ます時。佛の本願にも相應し。往生の業
b02 種をも增長して。人人の機に隨ひて。速くも遲くも。
b03 ついに必ず。能引能滿の業を成辨すべきなり。され
b04 ば大師云。聖道門の修行は。智慧を極めて生死を出
b05 で。淨土門の修行は愚癡に還りて極樂に生ずど。
b06 これ安心の至極なり。いかなるをか愚癡とは云ふ。
b07 仰賴救我の願心是なり。聖道門には。出離の因には
b08 非ずと捨てられたる凡夫癡直の心をもて。直に生死
b09 を出で。速に淨土に生ずる事。これみな阿彌陀如來
b10 の大願業力の致す所にして。さらさら凡夫の力には
b11 非ず。又その佛の大願力に乘ずる事は。ただ仰賴救
b12 我の願心の力なり。行者よく此意を得て。わきめも
b13 ふらず。ふかふかと本願を賴み奉りて。心に助玉へ
b14 と思ひ。口に南無阿彌陀佛と申て。百年報滿の夕ま
b15 で等起の思變ぜず。得繩の業絶ゆる事なくてめでた
b16 く聖衆の來迎を待ち奉るべきなり
b17 一編五段の大旨。あらあらかくの如し。初段の序分