第9巻 132P 一枚起請弁述 義山

No. 詳細情報
a01 りの上人に二尊を證とせる誓言の外に何の傳受をか
a02 隱し給ひて往生の一大事を失はせ給はんやもし實に
a03 言外の口傳ありとならは殘しおかれし起請の益もな
a04 く末世凡俗の岐路に迷ふなかだちとなり上人の御往
a05 生もあやふくこそ侍れ其授る所の旨趣如何なる義を
a06 か相承し侍らん覺束なしたとひ正見の類ひなりとも
a07 信心決定のなかだちにせんにはこの一紙に對して傳
a08 受し得んこと尤可誡也豈小利を見て大利の滅亡を顧
a09 さらむや何に況や小利も稀也凡そこの一紙の趣き上
a10 人の御素意只是れ末世の邪義を防かんかために如
a11 是示し給ふ也今時はこの理に背きて種種に妄説を巧
a12 み邪見を傳ふその説紛紛として巷に滿つ願くは早く
a13 止邪可勵正也
a14 もろこし我朝にもろもろの智者達の沙汰し申さ
a15 るる
a16 天台淨影等は唐土の智者也惠心永觀等は我朝の智者
a17 也沙汰とはゆりそろゆると云ふ心にて諸師樣樣に料
b01 簡せられしを云ふ也
b02 觀念の念にもあらす又學文をして念の心を悟り
b03 て申念佛にもあらす
b04 按するに和語縱容にして多義を含みけれはこの一節
b05 の心に樣樣の料簡あるへし凡そ觀念とは言は簡畧な
b06 れとも義は廣し所謂理事無相等の種種の觀念可有
b07 其理觀と云ふは法身無相の佛躰を念する等是れ也事
b08 觀と云ふは報應二身を觀する等是れ也事理有相無相
b09 異なれとも皆觀念の念佛と可名念の心を悟りて申
b10 とは即相と云ふ悟りの念佛也去程に學文をして所觀
b11 の境を辨へ能觀の念を悟りて修するもあり學文はせ
b12 ねとも師家の敎に隨て直にそれを修するもあるへし
b13 如是等の類一にあらされとも皆觀念の念佛也今こ
b14 れを押へて學文をして念の心を悟りて念する觀念の
b15 念にもあらすと云ふ也又只學文を假りにして三心な
b16 んどを具さに詮義計りして稱名の事を失念する人も
b17 あり故に上人の滅後建保二年の比かかる邪義を弘む