第9巻 131P 一枚起請弁述 義山

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a01 きを决し給へる也凡そ世事にもあれ佛法にもあれ物
a02 事の上に涉て一事にても落居しおほせて是非善惡の
a03 問疑なく决斷し得んこと豈に容易にして之を得へけん
a04 や上人は涉聖敎傳記等を曉めその敎かの傳に眼を
a05 さらして終に往生の直路を示し末世凡俗出離の大道
a06 をこの一紙に至極せしめ給へり何そその事を輕易に
a07 すへけんや上人にあらずして誰か此仁に書し授けん
a08 や大方人の仕置ける跋につきては誰もかほとには思
a09 ひ企つへけれとも小事にても落居する事の難きは誰
a10 れ人もよく知れる所也さてこそ一紙の趣きに引きか
a11 へて或は觀念の念或は學文をして悟りたる念こそ念
a12 佛の念なりと云ひ或は別の子細あり奧深き事を可
a13 存抔と立てその事を落居する迄の功業には總て一代
a14 の佛法に涉らすんはなと疑ひ無く是非分明なる事を
a15 得へけんやされはこの一紙に事を落居し給へる中に
a16 佛の御一代の敎法上人御生涯の勳功は悉く含み示し
a17 給へることと斷する也世の奏狀の如く若干の巨細を入
b01 るるものならんや世の常ね事繁くあや分け難くして
b02 理を立て義を講する抔云ふ事未事知半途にしてこ
b03 そあるへけん何そ義を裝り理を斷するの間を以て事
b04 の至り道の極りとすへけんやさてもこの一枚は其詞
b05 は和かに其義穩にして幽遠深妙也又言外の口傳もあ
b06 る樣に云ひはやせと誰人に傳へ給ひしか知り難し思
b07 ふに後人の憶談愚人を迷はすの妄傳なるへしそのゆ
b08 へは凡そこの一紙の起りは一宗の安心起行につき最
b09 も諸人の知り易きを本意として詞も和語の知り易き
b10 を用ひ意も凡下の悟り易きをさきとして我宗の信行
b11 の至極を只この一紙の面に顯し末世凡俗この趣きを
b12 鏡とせよ全くこの外に奧深きことなしとこそ誓言あり
b13 つるに何の所以有てか言外に深理を隱し給はんやこ
b14 の中に口傳抔云ひあへるは最も信受し難きことにそ侍
b15 るたとひ上人御口づから授け給ふともかかる胡亂に
b16 きこえし自語相違の御仰せなるをは如何につたなき
b17 吾等なりともなとおめおめと傳受すへけんやさばか