第9巻 130P 一枚起請弁述 義山

No. 詳細情報
a01 觀房一代の間常に首にかけて人に披露せす秘藏して
a02 人にも見せす然るに河合の法眼と云ふ人あり割注加茂の神人と見へ
a03 たり割注これは師檀にして睦しく語り合ふ故に其樣子を物
a04 語りぬそれ故法眼懃切に望みけれは乃ち一枚を寫し
a05 て授けけりそれより以來世間に流布して上人の一枚
a06 起請と云ふ也
a07 上來は俗化講錄終正德元割注割注天七月十日京都に於て
a08 義山和尚講之一二日にして終也
a09 一枚起請辨
a10 謹按此一紙示し殘し事勢觀房源智の請ひに應し給
a11 へること也傳文分明なれは更に紛るる所なし一説に
a12 存別義敢難信用者歟解義勸進共に其益尠し世に
a13 一枚起請と名くる事是れ只一枚に記して釋迦彌陀爲
a14 證替往生大事被仰けれは實に可 恐誓言也され
a15 は一紙に記せる誓言なる故に一枚起請とこそ名付け
a16 侍れ一枚起請の名は後人の名けし所也起請の名は上
a17 人の素意にも思召含ませられたり正しく題號を加へ
b01 けるは後人の所爲にして自ら題し給ふとは見へすさ
b02 れはこそ傳にも上人の一枚起請と名けて世に流布す
b03 るは是也凡此一紙の趣き和語縱容にして多義を含み
b04 美言簡畧にして至要を括りけれはその深旨を窺ふに
b05 及ては一旦にして盡す事不能されは始より正見の
b06 徒にして習ひ聞く所の一家の安心起行は只この一
b07 紙に至極す更に餘に心を不可移然るに其趣き難
b08 心得樣樣思惟してかかる心得易き祖意を失ふはい
b09 と悲しく覺え侍るその誤れる品品また一旦に難 述
b10 以爲らく宗の安心起行はこの一紙に至極せるとてそ
b11 の唱へ大切に聞ゆれともさせる深旨をは盡すとも見
b12 えぬものをなと和語の讀み易きをあなとりて大事の
b13 落居し難きをも知らさる也和語は吾か朝の詞天竺の
b14 陀羅尼なること今始まりたるにあらす上人此國の俗
b15 を化するに廣く萬民の讀み易きをさきとして漢字を
b16 用ひ給はす蓋し其法流布の普からんとを欲し給ひし
b17 故ならんされは和語の讀み易きを以て大事の决し難