第9巻 129P 一枚起請弁述 義山

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a01 ぬ也如何程の智者にても彌陀を賴む當躰は一文不知
a02 の愚者とかはる事はなき也
a03 尼入道の無智の輩とは在家の髮をそり髻をきりた
a04 る尼禪門の東西を辨へさる輩只一筋に助け給へ南無
a05 阿彌陀佛と云ふに少しもかはらぬことを云ふ也故に阿
a06 彌陀經にこの念佛を不可思議功德とは説相明か也そ
a07 の上善導の御釋にも釋迦の能説の敎法さへ難曉と釋
a08 し給ふ也
a09 一向に念佛すへしとは一向の言は餘行を雜へす生
a10 因本願の唯稱名の一行を修せよと也淨土宗の安心は
a11 これより外にはなし三心四修五念抔云ふことあれと
a12 も皆助け給へ南無阿彌陀佛に籠りて別の子細はなし
a13 これを何やらことごとしく三心と云ふは何何と取り
a14 擴くれは如何程にも云はるへしと雖それは盡きす畢
a15 竟三心も四修も五念も皆南無阿彌陀佛也この外に習
a16 ふことあれは元祖は地獄に落ち給ふへき也上人地獄
a17 に落ち給はすんはそう云ふ人そ落つへき也元祖は道
b01 心深き人なれは能く出離生死を祈り給ふ決して卒爾
b02 なることはなき也然れは淨土宗は明か也隱し事はな
b03 し念佛をよく申す人を鏡としそれを敎とすれは元祖
b04 に背かさる也元祖に背かされは決定して往生を遂く
b05 る也
b06 さて幸なるかな此書今淨土宗の黑谷にあり御忌に掛
b07 る也上人の御自筆なれは別して難有事也上人病臥の
b08 ことなれは言付けても書かせ給ふへきに末代のため
b09 と思召して自ら筆を取り書き給ひし也龜鏡とはうら
b10 なひする時の龜の如く見善惡如鏡と云ふ心也上人
b11 の一枚消息とはただ紙一枚の文なれば一枚と云ふ消息
b12 の事は前に出たりまた一枚起請とも云ふ也これを起
b13 請と云ふは文の中に二尊の憐みにはづれ本願にもれ
b14 候へしとある故に二尊を證にとり往生の大事をかけ
b15 たる誓言也されは起請の名は上人の御素意にもとづ
b16 き一枚の字は後人のよぶ所也選擇要決の中にも最後
b17 の遺誓とある也誓とは起請の事也九卷傳にこれは勢