第9巻 128P 一枚起請弁述 義山

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a01 門にこれあり爲長の十訓抄にも載せある也されは大
a02 事の時には起請を書くこと昔にも其例あり爰は元祖一
a03 大事の所なれは起請あるへき也元祖は初より道心深
a04 くましまして如何にしてか生死を出離し淨土に至ら
a05 むかと思召ての御學文也然るに二尊の憐みにはづれ
a06 六萬七萬の修行も虚しくして三途の底に入らむとあ
a07 る御誓言を立て給ふべきにあらず然るに是れは何の
a08 爲めに立て給ふとなれは既に滅期臨終の時近つきし
a09 故に大慈悲を以て末代の衆生を憐み疑ひをはらさせ
a10 むかために御誓ひを立て給ふ事なれはあだに心得へ
a11 からす此外に等とは上にある思ひとりて申外には別
a12 の子細候はすと云ふより外に耳ささやくと云ふことは
a13 なき也人を選て外に甚深なることを傳ふる抔云ふことも
a14 なし若しこれに違ひなは釋迦彌陀二尊の憐みにはづ
a15 れむと也釋迦彌陀の大悲にはづれなは何處へ行くへ
a16 きか三途の底に沈むより外はなき也これをとくと合
a17 點して聲を打立て唱ふるより外は何もなき也
b01 念佛を信せん等とは本願に乘して一筋に此念佛を
b02 申す中に於て學文をなしたれはよからむ智者なれは
b03 勝るるかと人毎に思へとも左樣のことなしたとへ一代
b04 經をそらむずる程の智者にても助け給へとあなたに
b05 任せて申す念佛なれは唯南無阿彌陀佛と唱ふる計り
b06 にして此方よりのとやかくの才覺知惠は不用也本願
b07 他力を賴む以上は知惠も才覺も不用也愚者なれはと
b08 て卑下せす智者は智者だてをせすして申す也それ故
b09 斯の如く仰せられたり念佛を信せん人は聖道の衆に
b10 はかまひなしもし念佛信仰の人ならはたとひ一代の
b11 法を學すともたとひとはもしやと云ふ意也今の世に
b12 一代の法を明に學する人は少したとひ學せし人なり
b13 ともこの利かの利と少しにても賢げありては鼻をは
b14 じかれ惡まるる也それ故一文不知の愚鈍の身になし
b15 て等と云ふ時にせつかく習ひ學ひたる事どもを如何
b16 にして忘れ得へきそと云ふに學び得たることを忘れよ
b17 と云ふにはあらす何程知りたりとてそれを用に立て