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詳細情報 |
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時行水を用けるとかや。正月一日にもなりにければ、死せずしては、往生すべきみちなきゆへに、 |
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尊願は正月一日の祝には、臨終の儀式をならして、としひさしくなれり。日來のあらましたがはず |
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して、今日往生すべき故に延引しけるとよろこびて、しきりに念佛しけれども、その日もすぎ次の |
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日も又くれぬ。只今臨終すべき心ちもなかりければ、上人の御文を又とりいだして、往生ののちは |
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思出べきなり。かならず極樂にまいりあへと自筆の御文にのせられながら、いそぎまいらむと心を |
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つくし侍に、をそくむかへさせ給ことの心うく侍よし、連日になげき申けるが、正月十三日の夜の |
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ゆめに來十五日午尅に迎べきよし、上人きたりてつげ給とみる。さめてこれをかたり歡喜のなみだ |
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をながしけり。件の日になりにしかば、上人より給たる袈裟をかけ、念珠をもちて西にむかひ端坐 |
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合掌して、高聲念佛數百反をとなへ、午の正中に、念佛とともに息たえぬ。紫雲空にそびき、異香 |
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室にみつ。荼毘の庭にいたるまで、そのにほひなをきえざりけり。腹をきりて後水漿をたちて、五 |
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十七日氣力つねのごとくして、いたむ所なく、つゐに往生をとげにける不思議の事なり。抑いまの |
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するところの自害往生、水漿をたちてのち、五十餘日をふること、殆信をとりがたしといへども、 |
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かの子孫、上人の御消息、ならびに念珠袈裟等を相傳して、披露する事世もてかくれなし。ただこ |
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れ尊願が不思議の奇特をのこするばかりなり。餘人さらにこのみ行せよとにはあらず。凡上代上機 |
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の事はしばらくこれをさしをく、末代當世の行者は機根よはきゆへに、たとひ思たつものありとも |