第17巻 147P 九巻伝

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a01 ありと云は。正像末の三時の遺敎也。聖道門の修行
a02 は正像の時の敎なるが故に。上根上智の輩にあらざ
a03 れば用べからず。是を西國中國の宣旨とす。淨土門
a04 の修行は末法濁亂の時敎也。故に下根罪惡の輩を器
a05 とする也。是を奧州の宣旨とす。然則三時相應の宣
a06 旨。是を取たがへずば。敎として何の行か成ぜざら
a07 んや。大原にして聖道淨土の論談ありしに。法門は
a08 牛角の論なりしかども。機根くらべには源空は勝た
a09 りき。聖道門は深といへども。時過ぬれば今の機に
a10 叶はず。淨土門は淺きに似たりといへども。當根に
a11 叶易しといひし時。末法萬年餘敎悉滅。彌陀一敎利
a12 物偏增の道理にをれて人みな承諾し。念佛門に歸せ
a13 り。然を今諸方の道俗を見聞するに。おほく有名無
a14 實の行を面に立て。互に嫉妬の瓧礫荊蕀みちふさが
a15 りて。眞實の白道をさへたり。是豈悲の切なるにあ
a16 らずや。
a17 敎阿彌陀佛事
b01 河内國に天野四郞とて。大強盜の張本にて。人を殺
b02 し財をかすむるを業として。世をわたる者ありける。
b03 歳漸に闌て後。上人の念佛弘通の趣を承て心を發し。
b04 出家して敎阿彌陀佛とて。左右なき念佛者と成て。
b05 常には上人へ參て念佛の法門を承けるか。或時上人
b06 へ參てけるに。人一人もなかりければ。今夜は御と
b07 ぎ仕らんとて留ぬ。靜まりて後。夜半計と覺る程に。
b08 上人やはらおき居て。如法しのびやかに息の下に念
b09 佛し給かとおぼしき事有けり。よくよく忍び給ふ氣
b10 色を知て。つつむとすれど。かなはずして。敎阿彌
b11 陀佛。しはぶきしたりければ。此僧にしられぬとお
b12 ぼしたる氣色にて。上人打臥たまひて。寢入たるよ
b13 しにて其夜もあけぬ。敎阿彌陀佛は。此行法の樣を
b14 聞ておぼつかなさ限なけれど。憚を存て尋ね申さず。
b15 さて遙に程經て後又參ければ。上人は持佛堂に御坐
b16 して。聲を聞給ひて。敎阿彌陀佛か何事ぞこれへと
b17 仰られければ。持佛堂の縁に參りて。敎阿彌陀佛は